論文要旨

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多くのブランド理論においては、販売が好調な企業や商品の銘柄がブランドとされ、高シェアや高収益などといった好調の様相がブランドの効用であり、知覚品質の高さが好調の要因であれば知覚品質がブランドの効用を生み出すものとして理論が構築されている。このように、ブランドがなぜブランドとして存在し得るのか、という考察なしに帰納的に理論を構築しようとするため、その文脈には知名率や信頼、愛着といったブランドを説明する言葉が乱立することになり、そのことがブランドの理解ならびに理論化を困難にさせている。ブランド力のある商品が高価格で販売できたり、特定の銘柄(ブランド)が長年にわたって販売首位の座を維持していたりすることは確かである。しかし、ブランドの理解において強調されるべきは「ブランド力があれば高価格で販売することができる」といったブランドの効用ではなく、なぜその様な効用を得られるのか、すなわち、なぜ消費者はブランドの影響を受けるのか、であり、ブランドに影響される消費者の特性である。

本論文は、ブランドを、その存在基盤の究明によって解明しようとするものである。ブランドの理論化を妨げる要因の一つが、ブランドを一義に捉えることによるブランド概念が含む内容の多様性である。この解決策の一つが、ブランドの存在基盤から機能ブランドと官能ブランドという二つのブランド概念を導出し、それぞれを独立の考察対象とする本論の考え方である。

第1章においては、「ブランドはなぜブランドとして存在し得るのか」という視点からブランドを考察し、存在基盤と結びつけた二つのブランド概念を提示する。

ブランドがブランドとして成立しうる背景には、生産国や企業名のイメージに影響されるという(最終)消費者の特性が存在する。イメージに影響される理由、すなわち、ブランドの存在基盤となる消費者の特性は、商品の質を評価するための専門的知識や能力を欠いている、デザインの良さなどの心理的な要素にも価値を認める、という二点に求められる。これらの特性から、ブランド商品であるか否かが品質の判断基準の一つとなり、また、ブランドが絵画と同様の価値を獲得できることになるのである。ブランドの成立過程には異なる二つの形があり、それぞれの成立過程を存在基盤とする二つのブランド概念が成立する。本論文においては、専門家ではないのことから生じる商品の評価不安を基礎として成立するブランドを機能ブランドとし、消費者が社会的な人間ゆえに生じる心理的価値の希求を基礎として成立するブランドを官能ブランドとする。一般的なブランド概念は、機能ブランドと官能ブランドをその構成要素とする。

機能ブランドとはいわばお墨付きであり、官能ブランドとは商品に描かれた絵柄である。絵画に対して超過価値や愛着という表現は違和感がないものの、お墨付きに対し超過価値や愛着という表現には違和感があるといえ、また、品質が明らかな場合にお墨付きは意味をなさない一方、商品に描かれた絵画はその価値を失わない。機能ブランドと官能ブランドは、ブランドとして同じく商品の購入を促進するものであるが、存在基盤を異にする異なる特性を有したブランドであり、一般的なブランド理論のようにブランドを一つの枠組みで議論することは容易ではない。一般的なブランド概念を、その機能ないし存在基盤に基づいて純化したものが機能ブランドと官能ブランドである。ブランドの存在基盤を考察することは、ブランド概念が含む内容の多様性を排除することにつながりその理解を促進するとともに、存在基盤を軸とした首尾一貫とした理論化を可能とする。

第2章においては、ブランドが販売に与える影響を、ブランドの存在基盤との関係から考察する。

ブランドは消費者の意志決定に影響を与えるものであるが、信頼や憧れといった感情が直ちに売上に貢献するわけではない。ブランド力があるから商品が売れるという関係は、ブランドと購入・販売の関係の一場面を記述しているに過ぎず、両者を一定の関係で捉えることは問題がある。機能ブランドは商品の信頼性を担保するものであるが、評価にかかる不安が小さければその影響力は弱くなり、また、趣味性の強い商品においては官能ブランドが選択の決め手となりやすく、さらには商品の差異機能が重視される商品群もある。ブランドが販売に与える影響は、商品の特性や市場に登場してからの年数によって異なり、一定の関係にはない。

ブランドが販売に与える影響が一定の関係にないところ、売上を基礎としたブランド力の理解には十分な配慮が必要となる。ブランドは消費者の心の中に形成された信頼や憧れの感情が選択意志決定に影響を与えることから、企業や商品(名)に対する信頼や憧れの感情がどれだけ存在するのかの測定がブランド力の測定となる。販売数や売上高を基礎とするブランド測定手法は、商品の評価や価格の影響を受けることになることから、ブランド力そのものを純粋に測定することができないと考える。本論における測定手法はブランドの潜在的な価値を検出しようとするものであり、販売データを基礎とするブランド力の測定結果はブランドの顕在的な価値を示すものとなる。潜在的なブランド力はあるがそれが販売に結び付いていなければ顕在的な価値では検出されず、ブランドに見合った魅力的な商品を提供できていないことを意味する。また、ブランド力と販売実績のデータが一致している市場では、ブランドが有効に機能していることを意味し、一致していない市場では当該ブランド以外の要素が重視されている市場であるといえる。

第3章においては、ブランドはどのような存在として企業経営に在るべきか、という視点からブランドと経営の関わりについて考察する。

ブランドして形成された信頼や憧れの感情は、他人を信頼し憧れる感情と同質のものでありその形成過程も異ならない。どうすれば信頼されるのかについての一つの解答というのはないが、知っている人と知らない人ではその信頼の程度は変わるはずであるし、身なりの整っている人と整っていない人でも信頼の程度は変わるはずである。しかし重要なことは、身なりを整え認知を高めることが信頼の本質ではないということである。信頼を得るだけの言動が重要なのであって、たくさんの広告を展開することがブランド経営ではない。官能ブランドにおいても同様であり、高価な服で着飾ることが魅力の条件ではなく、広告宣伝戦略がブランド戦略とはならない。

人は、その人の思想から表情が作られ発言し行動することによって信頼や憧れの感情を獲得しうる一方、企業の組織の場合は人がその構成要素であるため、思想がなくても活動できる存在である。しかし、思想のない人や組織に信頼や憧れは成立しない。ブランドが形成されるためには組織としての哲学が不可欠であり、それがブランド理念である。ブランド経営とは、このブランド理念から企業活動が創造され、そこから消費者の心の中に信頼や憧れの感情が形成される過程であると解する。ブランド経営とは広告戦略ではないし、商品を高価格で販売することでもない。ブランドとは企業活動を創造するものであり、商品に込められた思いを消費者に伝えるものである。

本論は、ブランドにかかる議論に、存在基盤の考察という視点を提供することによって、ブランドの論理的な理解を可能とした点に意義が認められるものと考える。

本論によると、ブランドの拡張は、機能ブランドについては商品分野によって作用が限定されることからその拡張も商品分野によって限定される一方、官能ブランドについては商品の分野によって限定されることはないものの品質不安によって限定される、というようになる。ただし、実際に、あるブランド拡張に成功するか否かについては、対象となるブランドの機能ブランドと官能ブランドの構成割合や、拡張先となる商品の分野がそれぞれのブランドに対してどのような反応を示すかといった分析が必要となる。

本論をより実践的に用いるためには、商品がブランドに対してどのような反応を示すのかを、その商品が市場に投入されてからの経過年数や商品の基本特性などの関係で把握する必要があるとともに、消費者の心情を正確に測定する手法の確立、ならびに、ブランド力と販売実績の適合度合を示す数学的な基準が求められる。